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2012年6月22日 (金)

福島原子力事故調査報告書

 一昨日,東京電力より,福島原子力事故調査報告書が公表されました。中間報告が出たのが昨年12月末でしたので,その後半年かけて,事故調査・検証が行われ,その結果が発表されたわけです。

 

 報告書は,本編だけで約370頁,別紙や添付資料を入れると優に1000頁を超える大部のもので,紙にプリントアウトすることはあきらめました。

 

 この報告書の目的は,福島第一の事故について,原因を究明し,原子力発電所の安全性向上に寄与するため必要な対策を提案すること,とされているので,必ずしも,事故の法的責任の所在の解明を目的とするものではありません。

 

 ただし,事故原因としては,「津波に対する備えが不十分であったことが今回の事故の根本的な原因」であるとしつつ,

 

 「津波の想定高さについては,その時々の最新知見を踏まえて対策を施す努力をしてきた。」

 

と記載されています。

 

また,事故対応態勢については,「発電所から見て指揮命令系統に混乱が生じたこと,結果として現場の実態を把握していない場所で,把握していない者が判断するような実戦的でない対応態勢になったことは問題である。」と指摘しつつ,

 

「このような事態を招いたのは,当社であり,政府であり,国であるものと考える。」

 

 と指摘しています。

 

  この報告書の内容を受けて,昨日の新聞各紙には,

 

 「東電,原発事故責任認めず」

 「原因は,想定外の津波」

 「官邸介入により,現場混乱」

 

 などといった見出しがおどりました。

 

  この報告書を読んで,私は,「なんだか原賠法31項の影がちらつくなぁ。」という印象を持ちました。この条文は,事故直後,同項ただし書きの適用の有無が大問題になったので,覚えておられる方も多いかと思います。

 

  原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)第3条第1項は,原子炉の運転等に係る原子力事業者に原子力損害について無過失の賠償責任を認めつつ,そのただし書きで,

 

  「ただし,その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは,この限りでない。」

 

 と規定し,原子力事業者(この場合は東電)の免責を認めているのです。

 

  結局のところ,政府は,昨年6月に,「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の仕組みについて」という閣議決定を出しました。その中で,東電から,原賠法に基づく公平かつ迅速な賠償を行う旨の表明があり,また,資金面について政府による支援の要請があったので,原賠法の枠組みの下で,東電に対する支援を行うことを明らかにしています。

  それを受けて,原子力損害賠償支援機構が設立され,機構を通じて,東電に対して賠償資金が提供され現在に至っているわけです。

 

  上記の仕組みは,東電が原賠法第3条第1項本文に基づく賠償責任を負うことを前提としているので,政府としても,東電としても,

 

3条第1項ただし書きの免責規定は福島第一の事故には適用されない

 

という建前に現在は立っていることになります。

 

 したがって,いまさら,原賠法第3条第1項ただし書きの議論を蒸し返す必要はないわけですが,なぜかどうも気になってしまうんですよね。

 いくら当時の官房長官や経産大臣が明言したとしても,ただし書きの適用の有無を最終的に判断するのは裁判所ですから。

 

 原賠法第3条第1項ただし書きは,分析すると,要件が二つあって,

 

 ① 天災地変が異常に巨大であること

 ② 異常に巨大な天災地変に因って損害が生じること

 

が問題となります。②は因果関係の問題ですが,逆にいえば,東電の過失に因って原子力損害が生じた場合には,ただし書きの適用はないということ。例えば,津波の規模の想定に落ち度があったとか,事故の初動対応にミスがあったとか。しかし,今回の報告書では,東電に何か過失があったとは読み取るのが難しいかと思います。

 

 あとは①が問題となりますが,今回の地震・津波は「異常に巨大な」天災地変に該当するのかどうか。政府は当然否定するわけですが,少なくとも文言だけからすると,どちらにも解釈できるように思います。

 

 ちなみに,他の法律で,「異常に巨大な」天災地変という用語が用いられていないかちょっと調べてみましたら,見つけられませんでした。ただし,

「異常な天災地変」という語を用いている法律はありました。例えば,船舶油濁損害賠償保障法第3条は,タンカー油濁損害についてタンカー所有者に無過失の賠償責任を規定していますが,「異常な天災地変」により生じた損害については免責すると規定しています。

 

 「異常な天災地変」というのと,「異常に巨大な天災地変」というのは,似ているけどちょっと違うように思います。後者は,「甚だしく巨大である天災地変」といったような意味でしょうか。もし,「異常で巨大な天災事変」という趣旨であれば,立法技術上,「異常,かつ,巨大な天災事変」という文言を用いるように思います。立法当時の国会審議の過程では,ある政府委員が

 

 「実に想像を絶すると申しましょうか,(関東大震災の2倍ないし3倍の地震)それさえももっと飛び越えるような大きな地震というふうにお考えいただければいいのではないか。」

 

と発言しているようです。

 

 いずれにしても,今回の地震・津波が「異常に巨大な天災地変」に該当するから東電は免責されると主張することは(そのように主張する政治的意味合い・目的は別にして),条文解釈上は必ずしも荒唐無稽で突飛な議論であるとは思われません。

 

 東京電力の株主総会向け平成23年度報告書を見ると,

 

 「当社は事故の当事者であることを真摯に受け止め,被害を受けられた皆さまへの賠償を早期に実現するとの観点から,国の援助を受けながら原賠法に基づく賠償を実施することとした。」

 

と記載されています。今更,法廷で,3条ただし書きの抗弁なんて主張しませんよね。

 

hy

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