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2012年6月20日 (水)

企業年金は投資のプロか

 AIJ投資顧問の社長が逮捕されました。報道によると,顧客である年金基金から運用資金名目で約70億円をだまし取った詐欺容疑。警視庁は,AIJ20094月以降に新規契約を結んだ92基金についても同様の被害に遭ったとみて調べているとのことです。

 

 被害者は,厚生年金基金や企業年金基金。もちろん,騙す方が悪いわけですが,騙される方も…。だって,年金基金って,投資のプロでしょ? と感じるかたも多いと思います。

 

 AIJの年金消失問題は,証券取引等監視委員会の検査を端緒に,2月に判明しました。その頃の新聞各紙は,年金基金はプロの投資家であって,自己責任だ,などという論調が多かったと記憶しているのですが,昨日の記事は,

 

AIJの実態を見抜けなかった金融行政の不備がある。」

「彼ら(注:社保庁OBの年金担当者のこと)は運用のプロとはいえず…」

 

などと指摘し,また,年金サイドの声として,

 

「(2007年に投資顧問業が登録制に規制緩和されたが)再び許可制にすべきだ。」

「銀行など金融機関並みに厳しい監査報告やチェックを義務づけてほしい。」

「(2009年に証券取引等監視委員会が実施したアイティーエム証券(AIJの子会社)の検査について)不正を見過ごし同社の事業にお墨付きを与えた形で,被害拡大につながった。」

 

といった批判を記事にしています。

 

 結局,年金基金って投資のプロなの?素人なの? という点は,法律上,あるいは世間一般の判断としては「プロ」ではあるが,実際上は,投資のプロとは全くいえない企業年金も存在するということなのかもしれません。

 

 現在の金融商品取引法は,金融商品取引業者の顧客となる投資家について,いわゆるプロとアマとの区分を設け,プロの投資家(「特定投資家」といいます。)については,知識,経験,財産,情報などの点において,業者に匹敵する能力を備えていると考えられるので,法による一律の業者規制は不要であるとの立場で制度設計がなされています。

 

 そして,国,日銀,投資者保護基金その他の法人などと並んで,「適格機関投資家」も「特定投資家」に該当することになります。

 

 「適格機関投資家」とは,「有価証券に対する投資に係る専門的知識及び経験を有する者として内閣府令で定める者をいう。」と定義されていて,具体的には,金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令に28に分けて規定されています。例えば,

 

  第一種金融商品取引業者(証券会社のことです。)

  投資運用業者

  投資法人

  銀行

  保険会社

  信用金庫

  信用協同組合のうち金融庁長官に届出を行った者

  農業協同組合・漁業協同組合で金融庁長官が指定する者

  金融庁長官に届出を行った一定規模以上の厚生年金基金・企業年金基金

  金融庁長官に届出を行った一定規模以上の法人

 

などです。

 

 ところが,金融庁長官に届出を行い適格機関投資家になっている厚生年金基金・企業年金基金というのは,実はそれほど多くないみたいです。今年の5月末日現在の資料として金融庁が公表している資料(金融庁のHPで見られます。)によると,6年金基金。

 

 つまり,他の大多数の厚生年金基金・企業年金基金は,適格機関投資家ではない(個別具体的な取引においては,いわゆるプロ成りして特定投資家に移行し,詳細な書面の交付を業者から受けていない年金基金もあるかもしれませんが。)。

 

 もっとも,厚生年金基金・企業年金基金は,厚生年金保険法・確定給付企業年金法に基づき設立された認可法人なので,たとえ,適格機関投資家ではないとしても,世間一般の認識としては,「投資のプロ」ということになるのでしょう。

 

 先に引用した新聞報道では,証券取引等監視委員会がアイティーエム証券の不正を見逃した,と年金基金の運用担当者に批判されていますが,一般的にいって,検査官としては,「顧客=年金基金」の取引を精査するということはあまりないと思います。当該証券会社にどのような顧客がいるのかにも当然左右されますが,まずは個人顧客,そして事業法人の顧客が関与する取引において不正が行われていないかどうか精査する。金融法人が顧客の取引については,投資のプロということで,そこまで注視して精査しないというのが実情かと。

 

 今回の年金消失問題においても,当初の報道では,「年金基金=投資のプロ」を念頭に記事が展開されていたところ,実際に取材を進めていくと,かならずしも年金基金(の担当者)が投資のプロではない,むしろ投資顧問会社に投資一任しているだけという図式があらわになっていったというのが,本年2月以降の流れかと思うのです。

 

 今回の事件は,年金行政のみならず,投資顧問業者等に対する規制の強化,プロ・アマ規制の是非,証券検査行政における金融法人顧客の検査のあり方など,いろいろな方面に問題を投げかけているように思います。

 

hy

 

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