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2012年7月 5日 (木)

受刑者に東電が賠償金

 昨日の新聞に,福島刑務所の受刑者に東京電力が賠償金を支払ったという記事が掲載されていました。

 

 記事によると,受刑者80人が東電に賠償請求し,一部の受刑者が一律8万円の賠償金を受けていたとのことです。

 

 この8万円というのは,どこからきた数字なのかと思われる方が多いかもしれません。この8万円は,昨年12月に原子力損害賠償紛争審査会が公表した,

 

「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)」

 

という指針が根拠となっているものです(以下「中間指針追補」といいます。)

 

 この紛争審査会は文科省に置かれ,

 

「原子力損害の賠償に関する紛争について,原子力損害の範囲の判定の指針」

 

などを定めることができるということが,原子力損害の賠償に関する法律に規定されています。

 

 この中間指針追補,「追補」というからには,それに先行する「中間指針」というものがあって,これは,昨年8月に出されています。8月の中間指針では,原発事故を受けて,原発に近い一定の区域(「避難指示等対象区域」)の住民が,政府の避難指示に従い避難を余儀なくされたことに基づく精神的損害を賠償すべきであるとしています。

 

 ところが,その後の調査で,「避難指示等対象区域」の周辺地域において,政府の避難指示に基づかずに「自主的避難」をした住民が相当数いたことが確認されたことから,この「自主的避難」者に対しても,精神的損害を賠償すべきであるということになり,公表されたのが,「中間指針追補」ということになります。

 

 そこで,「中間指針追補」では,「避難指示等対象区域」の外側に「自主的避難等対象区域」というものを設定し,この区域にいた「自主的避難等対象者」の精神的損害をも賠償すべきであると定めています。

 

 ここで,登場したのが,「自主的避難等」という概念です。「自主的避難」に「等」がくっついています。これは,原発事故による放射線被曝への恐怖や不安を抱き,その危険を回避しようと考えて避難を選択した人が「自主的避難者」であるが,他方,自主的避難をせずにそれまでの住居に滞在し続けた人が抱き続けたであろう被曝への恐怖や不安もまた無視することはできないので,自主的避難をした場合も,自主的避難をしなかった場合も,どちらも同じ精神的苦痛を被っているのであるから,区別することなく,「自主的避難等」ということで賠償すべきという発想です。

 

 そして,原発事故発生時に,自主的避難等対象区域内に生活の本拠としての住居があった者は,自主的避難をした場合も,しなかった場合も,事故発生当初の時期の損害として,一人8万円を賠償すべきであると,「中間指針追補」は定めています。この8万円には,正常な日常生活を阻害された精神的苦痛+生活費の増加分も含まれています。

 

 というわけで,福島刑務所の所在地も「自主的避難等対象区域」に指定されたため,受刑者は,拘禁されているので,自らの意思で自主的避難を選択しなかった(刑務所にとどまった)わけではありませんが,「自主的避難等対象者」の定義には該当するので,一人8万円の賠償を受けられるということになるということかと思います。

 

 報道によると,事故当時,福島刑務所には約1700人の受刑者がいたということなので,賠償額は膨れ上がりますね。それとも,東電は,今後受刑者から請求があっても,支払いを拒否するのでしょうか。

 

hy

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