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2012年8月26日 (日)

社交儀礼としての贈答

 京都大学大学院の設備調達を巡る汚職事件で,同大学院薬学研究科の元教授が収賄罪で起訴されたとのニュースが先週中ごろ報道されていました。

 

 報道では,私的な海外旅行費や飲食代など約643万円の賄賂の授受があったとされています。さらに,新幹線回収権や旅行ギフト券をもらったとされ,この元教授は再逮捕されています。

 

 同日の新聞記事では,この事件と並んで,車両情報を漏えいした警察官が,収賄容疑で逮捕されたとの記事も書かれています。賄賂は,ビール券50枚(38300円相当)などと報じられています。

 

 収賄罪は,公務員が,職務に関し,賄賂を収受・要求・約束した場合に成立します(単純収賄罪)。もし,一定の職務行為の依頼を受けた場合には受託収賄罪となり,結果として,不正な行為をし,または相当な行為をしなかった場合には加重収賄罪としてより重く処罰されます。

 

 ところで,賄賂って具体的に何を意味するのでしょうか。

 賄賂罪は,職務の公正とそれに対する社会一般の信頼を守っているのだと一般的には考えられています。そのことから,賄賂とは,公務員の職務に対する不正な報酬な利益であると定義されています。

 

 具体的には,現金や物品のみならず,およそ人の欲望を満たすに足りるすべての利益を対象とし,饗応や異性間の情交,新規上場予定の株式を公開価格で取得する利益なども賄賂になりうると考えられています。明治43年という古い判決ですが,芸妓の揚代若しくは演芸代につき,

 

 「芸妓の演芸は饗応の一部にして人の欲望を充たすの目的たるに外ならざれば…」

 

 と述べているものがあります。

 

 他方で,公務員に対しても,お中元やお歳暮など,社交儀礼としての贈答をする場合もあると思います。その場合,賄賂か否かはどのように判断するのでしょうか。おまわりさんにビール券をお中元で贈ったら贈賄罪になるのかということです。

 

 この点,昭和4124日という古い大審院判決は次のように述べています(引用者において,カタカナをひらがなに改め,漢字の旧字体も適宜改めています。)。

 

 「若し公務員の職務に関係なかりせば中元歳暮に於ける社交上の慣習儀礼と認めらるべき程度の贈物と雖苟も公務員の職務に関し授受せらるる以上は賄賂罪の成立すること勿論にして其の額の多少公務員の社交上の地位若しくは時期の如何を理由として公務員の私的生活に関する社交上の儀礼による贈答たるに止まるものと認めざるべからざる理由あることなし」

 

 つまり,お中元やお歳暮における社交上の儀礼と認められる程度の贈物も,職務に関して授受される以上,賄賂となると判示しています。

 

 そうすると,たとえビール券1枚であったとしても,職務に関し警察官に贈ると,贈賄罪が成立ということになりそうです。

 

 結局,「職務に関し」贈られれば,金額の多寡を問わず賄賂となるということなので,次の問題は,「職務に関し」とは何かが問われることになります。

 

 この点,判例の基本的立場は,「職務に関し」とは,公務員の職務行為自体であることを要せず,職務に密接に関連する行為をも含むとしています。密接関連行為について賄賂が贈られた場合にも,職務の公正に対する社会一般の信頼は害されるというのがその理由のようです。

 

 しかし,「密接関連行為」を含むとなると,行為の外延は相当広がり,不明確になると思います。

 

 さらに問題は,「密接関連行為」論の根拠が職務の公正に対する社会一般の信頼だとすると,「不正な行為」=「密接関連行為」と認められがちになるのではないかという点です。

 

 現に,北海道開発庁長官の職務行為が問題とされた平成2297日最高裁決定では,次のように判示されています。

 

 「…北海道開発庁長官である被告人が,港湾工事の受注に関し特定業者の便宜を図るように北海道開発局港湾部長に働き掛ける行為は,…このような働き掛けが金銭を対価に行われることは,北海道開発庁長官の本来的職務として行われる予算の実施計画作成の公正及びその公正に対する社会の信頼を損なうものである。したがって,上記働き掛けは,北海道開発庁長官の職務に密接な関係のある行為というべきである。」

 

 上記決定を文字どおり読むと,不正な行為であって,ある公務員の本来的職務の公正に対する社会の信頼を損なうものは「密接関連行為」に含まれるということになりそうです。

 

 しかし,「賄賂」は単純収賄罪の構成要件でもあって,その場合には,公務員の不正な行為は要件とされていません。不正な行為があった場合には,加重収賄罪として重く罰するというのが刑法の趣旨ですが,「賄賂」性の判断,つまり「職務に対する」の判断の一材料として,「不正な行為か否か」を持ち出すのは,法が加重収賄罪をあえて設けている趣旨に反することになるのではないかと思います。

 

 いずれにせよ,公務員に対し贈答をすることは,十分な注意が必要ですね。

 

 ところで,弁護士は公務員ではないから,贈答を受けてもOK,かとうと,単純にそういうわけではありません。受任事件の相手方から利益を受け,要求・約束した場合,汚職の罪が成立してしまいます。

 

hy

 

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