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2012年9月28日 (金)

解体か再建か

 数日前の報道で,法務大臣が,今月,法制審議会に対して,被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法の見直しを諮問したとのニュースが報じられていました。

 

これを受けて,法制審議会では,新たに「被災関連借地借家・建物区分所有法制部会」という部会を新設し,この部会に付託して審議されることとなりました。

 

上記の法務大臣の諮問(諮問第九十四号)の内容は以下のようなものです。

 

「今後想定される大規模な災害に備え,…被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法を早急に見直して,大規模な災害により重大な被害を受けた区分所有建物の取壊しを容易にする制度を整備する必要がある…。」

 

この諮問が,東日本大震災で被害のでた分譲マンションなどを念頭に置いているということは,その内容から容易にわかるかと思います。では,いったい何が問題となっているのでしょうか。

 

「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」(以下「特別措置法」)は,その名のとおり,区分所有建物についての特別法です。マンションなどの区分所有建物について,一般的に規定しているのが,「建物の区分所有等に関する法律」(以下「建物区分所有法」)ですね。

 

建物区分所有法にも,「復旧及び建替え」という節があり,建物が一部滅失した場合などについて規定を設けています。

まず,建物が一部滅失した場合(滅失の原因は,災害による場合か否かを問いません。),区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数で,滅失した共用部分を復旧する旨の決議をすることができると規定しています。つまり,4分の3以上の多数決で,一部が壊れた建物を復活させるわけですね。

 

他方で,建物区分所有法には,建替え決議という規定もあります。

これは,区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で,建物を取り壊し,かつ,新たに建物を建築する旨の決議をすることができるというものです。この建替えは,別に建物が一部滅失していなくても,例えば「古くなったので建替えよう。」という場合でも利用できます。ただし,「取り壊し,かつ,」と規定されているので,取り壊すだけではだめで,新建物を再築する必要があります。

 

これらに対して,特別措置法が定めるのが,再建の決議です。

これは,建物が一定の災害により全部滅失した場合,敷地共有者等の議決権の5分の4以上の多数で,建物の再建する決議をすることができるというものです。

 

以上,各規定を概観しましたが,乱暴にまとめると,①一部滅失なら4分の3以上で復旧,②災害による全部滅失なら5分の4以上で再建,③一部滅失していてもいなくても5分の4以上で取り壊して再建,がそれぞれできるということです。

 

ここまで見てくると,重要な範疇が抜け落ちていることがわかると思います。(災害等で)一部滅失した建物について,復旧を断念する(建物を解体する。)という範疇の規定がないのです。

実際問題として,東日本大震災を原因として,建物の一部が壊れたが,建て替える費用はなく,かといって補修工事をするにも多大な費用がかかるので,いっそのこと解体してしまいたいという建物が多くあるのではないかと報じられています。

 

しかし,この場合の規定は,建物区分所有法にも特別措置法にもない。

そうとすると,話は,一般法である民法によって決せられることになります。そして,民法251条には,次のような規定があります。

 

「各共有者は,他の共有者の同意を得なければ,共有物に変更を加えることができない。」

 

つまり,共有物に変更を加えるには,共有者全員の同意が必要ということです。

 

これを東日本大震災の建物の例に当てはめると,建物が一部滅失したので,取り壊して,かつ,再建するということであれば5分の4以上の同意でできるのに,建物を解体して,かつ,再建しないという場合は,区分所有者全員の承諾が必要となってくるということです。一人でも反対したら,できないと。

 

この民法251条については,平成10324日に最高裁判例が出ていて,次のように述べています。

 

「共有者の一部が他の共有者の同意を得ることなく共有物を物理的に損傷しあるいはこれを改変するなど共有物に変更を加える行為をしている場合には,他の共有者は,各自の共有持分権に基づいて,右行為の全部の禁止を求めることができるだけでなく,共有物を原状に復することが不能であるなどの特段の事情がある場合を除き,右行為により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めることもできると解するのが相当である。」

 

この判決は,畑であった共有地を,共有者の一人が土砂を搬入して宅地造成し,非農地化した事例についてのものですが,判決では,搬入された土砂の範囲の特定及びその撤去が可能であるときは,他の共有者は土地に搬入された土砂の撤去を求めることができる,として,高裁に審理を差し戻しています。

 

これを東日本大震災の建物の例に当てはめると,区分所有者の全員の同意を得ないで,解体を始めてしまった場合,あとから,同意していない区分所有者の求めに応じて,建物を解体する前の状態に回復しなければならないことになりかねません。そのような主張は,権利濫用の法理により封じられる場合が多いでしょうが,それにしても,全員の同意を得ないで解体を進めるには,リスクが大きすぎますね。

 

というわけで,冒頭の,法務大臣の諮問に戻るわけです。これから法制審の審議が始まるわけですが,東日本大震災で被災した建物の区分所有者にとっては重要な問題でしょうから,早期に一定の方向性が出されることが望まれます。

 

ところで,冒頭の諮問第九十四号は,

 

「罹災都市借地借家臨時処理法を早急に見直して,同法を現代の社会によりふさわしいものにする…」とも述べています。これは,どういうことかというと,同法第1条の条文を見ていただければわかると思います。

 

「この法律において,罹災建物とは,空襲その他今次の戦争に因る災害のため滅失した建物をいひ,疎開建物とは,今次の戦争に際し防空上の必要により除却された建物をいひ,…」

 

この法律は,「政令で定める火災,震災,風水害その他の災害のために滅失した建物」に準用されるという準用規定を設けているので,現在でも適用があるわけですが,「今次の戦争」とか「疎開」とかいう表現を見ると,諮問が指摘するとおり,現代の社会にふさわしいものに改める必要があるという点は,異論がないと思います。

 

hy

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