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2012年9月 8日 (土)

準危険運転致死傷罪

 今週初めの新聞で、法務大臣が、準危険運転致死傷罪の創設について、法制審議会総会に諮問することを表明したとの報道がなされていました。

諮問の背景には、悪質な交通事故に対して、遺族から厳罰化を求める意見が出ていることや、危険運転致死傷罪の構成要件に無免許運転を追加することを求める動きがあることなどがあげられています。

自動車の運転に起因する死傷事故について、現在の刑法がどのような取り扱いをしているのか,ここでちょっとまとめてみます。

「過失により人を傷害した者は,三十万円以下の罰金又は科料に処する。」

「過失により人を死亡させた者は,五十万円以下の罰金に処する。」

以上が,過失傷害,過失致死についての現行刑法の規定です。

人を殺すつもりとか傷つけるつもりで車ではねる場合は,殺人罪や傷害罪にあたりますが,そのような故意のない一般的な交通事故により,結果として被害者が死傷した場合,理論的には上記の条文で処理されることになります。

しかし,いくら過失とはいえ,人を死亡させて五十万円以下の罰金ですむというのは,あまりにも軽すぎる。というわけで,交通事故に起因する人の死傷については,伝統的に,五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金(平成18年改正前は五十万円以下の罰金)を法定刑とする業務上過失致傷罪が適用されてきました。

ここに,「業務」とは,人の生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって,かつその行為は他人の生命身体に危害を加える虞のあるものであることを必要とする,というのが判例の立場です。自動車の運転=業務にあたるというわけです。

しかし,仕事のための運転に限らず,娯楽のための自動車の運転も反復・継続の意思があった場合には「業務」にあたると判例はいっているので,業務上過失致傷罪における「業務」は,日常生活における「業務」の意味とはかけ離れたものになっていました。

結局は,過失致傷罪・過失致死罪の法定刑があまりにも軽いため,政策的に業務上過失致傷罪が設けられ,かつ,解釈されて適用されてきたといっても過言ではないと思われます。

その後,自動車の無謀・悪質な危険運転による死傷事故の発生に対処するためには,業務上過失致傷罪では不十分であるとして,平成13年に,危険運転致死傷罪が設けられました。これは,制御困難運転(アルコール・薬物の影響,高速度・運転技能を有しないで走行)又は通行妨害運転を行い,結果として人を死傷させた場合に成立します。当初は,致死傷罪の刑の上限は10年でしたが,平成17年に15年に引き上げられました。

さらに,その後,危険運転過失致死傷罪に該当しない場合であっても,悪質なものについては,業務上過失致死傷罪による処罰では不十分だとして,平成19年に,7年以下の懲役を刑の上限とする自動車運転過失致死傷罪が設けられました。

これによって,自動車の運転(過失)による死傷事故については,従来適用されていた業務上過失致死傷罪は適用されないことになりました。業務上過失に比べなぜ刑が加重されるかについては,いろいろ説明がなされていますが,車の運転に比べて危険な業務はたくさんありますので,結局は,これも政策的な規定ということになるかと思います。

以上,自動車の運転に係る死傷事故については,刑の上限15年の危険運転致死傷罪と,上限7年の自動車運転過失致死傷罪のどちらかが適用されるというのが現状の取り扱いです。

冒頭に紹介した報道内容は,上記の二つの致死傷罪の間に,準危険運転致死傷罪を創設しようというものです。契機となった事件は,無免許運転の少年に小学生がはねられたというものです。

危険運転致死傷罪は,「その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ」た場合を要件としますが,上記の事件の無免許の少年は,無免許とはいえ,無免許運転を繰り返していたため,一定の運転技能があると検察が判断し,危険運転致死傷罪の適用を見送ったと報道されております。

それに対して,遺族からは,「無免許なのにそんなバカな話があるか!」という声が上がり,危険運転致死傷罪の構成要件に無免許を加えよという要求がなされました。しかし,原因行為の危険性を理由に刑を加重しているのが同罪の趣旨であるので,無免許というだけで同罪に取り込むのは難しい,したがって,別途,準危険運転致死傷罪を設けることを検討する,というのが,今回の経緯のようです。

上述した一連の流れを見ると,厳罰化の要請に従い,犯罪類型を政策的に拡充してきたものの,理論的にはめちゃくちゃのように思います。確かに,自動車の運転は危険な行為ですが,それを越える危険な行為は世の中にたくさんあります。例えば,危険な建設作業中の過失事故で人が死んでも,その刑の上限は,業務上過失致死傷罪の5年で,自動車運転過失致傷罪の7年を越えることはないのです。機長の運転の過失で航空機事故が起こっても,自動車運転のほうが刑の上限が重いのです。なぜ理論的にそうなのか,誰も説明できないと思います。

今回の準危険運転致死傷剤の創設については,法制審議会の諮問にかけられるとのことです。世に交通三悪として,無免許,無車検,無保険があげられます。今回もこれらが取り上げられると予想されます。著名な学者や,高名な裁判官,検察官等で構成される同会の審議を踏まえる以上,単に政策的に新しい犯罪類型を追加するというだけでなく,既存の構成要件との整合性も踏まえ,きっちり理論的な整理をすることが望まれます。

hy

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