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2012年10月19日 (金)

違憲判決の効力

  平成22年(2010年)7月施行の参議院議員通常選挙について,公職選挙法別表の議員定数配分規定(最大較差は15.00)は憲法141項等に違反して無効であるという選挙無効訴訟の上告審判決が,一昨日言い渡されました。

 

  翌日の朝刊各紙には,「10年参院選「違憲状態」」との見出しがおどりました。

 

  しかし,この「違憲状態」という表現,あまり正確ではないように思います。だからこそ,かぎカッコつきの「違憲状態」と新聞の見出しには書かれているのだと思いますが。

 

  今回の判決では,3人の裁判官の反対意見がありますが,多数意見は,以下のように述べています。

 

  「本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。」

 

  つまり,公職選挙法も合憲だし,それに基づく参議院議員選挙も合憲であるというのが,判決の結論です。

 

  では,なぜ,新聞の見出しでは,「違憲状態」と書かれていたのでしょうか。

  判決は,上記結論を導く前提として,次のように述べています。

 

  「本件選挙当時,前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており,これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない。」

 

  うーん,難しいロジックですね。「「違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態」なんだけど,議員定数不均衡を是正しなかったことは,国会の裁量権を逸脱していないので,憲法違反ではない。」ということです。この「違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態」というのが,新聞見出しの「違憲状態」という表現に対応するのだと思います。

 

  これは,昭和52年参議院議員通常選挙に関する昭和58年の大法廷判決以降,確立された判例のロジックに基づくものです。つまり,憲法はどのような選挙制度を採用するかについて国会に対し裁量権を与えており,参議院議員について全国区と地方区にわけ(昭和57年以降は比例代表区と選挙区。しかし制度枠組みは基本的に変わりません),後者については都道府県を選挙区単位とすることは,国会の裁量権の範囲内であるが,

 

  「不断に生ずる人口変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至る。」

 

 という判断枠組みです。

 

  というわけで,多数意見は,結論において,憲法違反ではないといっているわけですが,他方,3名の裁判官は,憲法違反であるとの反対意見を述べています。

 

  これらの反対意見,憲法違反との結論であれば,選挙も当然違憲無効であるということになりそうですが,そうでないところがまたややこしいところです。3裁判官とも,いずれも,いわゆる事情判決の法理により,選挙を無効としないという結論を導いています。

 

  この事情判決の法理とはどのようなものかというと,今回の大法廷判決の原審の一つである東京高裁平成221117日(平成22年(行ケ)第21号)でも採用されています。原告が請求の趣旨として,

 

  「平成22711日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の東京都選挙区における選挙を無効とする。」

 

 という判決を求めたのに対して,東京高裁の下した判決主文は,以下のとおりでした。

 

  「1 原告の請求を棄却する。ただし,平成22711日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の東京都選挙区における選挙は違法である。

   2 訴訟費用は被告の負担とする。」

 

  つまり,原告の請求を棄却することで,選挙は無効ではないと判断しているわけですが,その選挙は違法であると宣言しています。しかも,訴訟に勝ったはずの被告に訴訟費用を負担させています。

 

  この事情判決の法理,その意図するところは,結局のところ,選挙を無効にしても大混乱に陥るだけなので,選挙を無効とせず,ただ,選挙が違法であることを宣言するにとどめる,ということかと思われます。それに,法律を改正するのは立法府の仕事ですから,裁判所はそれに口をはさむべきではないという考えも背後にあるのでしょう。

 

  しかし,「選挙は違法」との判決にもかかわらず,その後、立法府が公職選挙法の改正を怠っていたら,どうなるのでしょうか。事情判決の法理は無力ではないか。現に,そのような場合は,事情判決の法理を繰り返すしかなく,あとは立法府の判断にゆだねるという考え方もあるようです。

 

  しかし,今回の3裁判官の反対意見は,いずれも,そのような考え方には与していません。今回は事情判決の法理の適用にとどめるが,今後とも違憲の状態が是正されない場合には,選挙無効の判断もありうる旨指摘しています。

 

  特に田原裁判官は,選挙無効の判決を下した場合の効力についてかなり深く言及されており,反対意見を読んでいる途中では,「おおっ,ついに事情判決の法理の適用を超え、選挙無効の判断に至ったか!」と思ってしまうくらいでした。

 

  田原裁判官によると,違憲の範囲が不可分で議員定数配分全体に及ぶのではなく,不平等の較差が著しい選挙区に限られて選挙が無効となるので,その選挙無効判決により,その選挙区の議員は将来に向かって失職するが,他の議員は失職せず,比例代表選挙により選出された議員及び半数の非改選議員をあわせれば,参議院は活動できるので,投票価値の較差を理由とする選挙無効の判決がなされても,それによって参議院議員の機能が不全になるとの事態が生ずることは想定されない,と説かれています。

 

  また,大橋裁判官も,選挙無効となった場合,当該選挙区の選出議員が失職するので,その欠員の補充のための選挙が必要になるところ,特別の立法による補充選挙を先行的な措置として行うことは憲法上可能で,今後はそのような立法措置についても立法府としては検討すべきことを述べています。

 

  このように,選挙無効となった場合の効力について,具体的に示されているという点は,画期的だと思います。

 

  また,多数意見についても,変化の兆しが強くうかがわれます。上述のとおり,最高裁の判断枠組みは,昭和58年大法廷判決を踏襲しているわけですが,今回,多数意見は,以下のように述べています。

 

  「以上は,昭和58年大法廷判決以降の参議院(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり,後記4(2)の点をおくとしても,基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。」(下線は引用者)

 

  「後記4(2)の点をおくとしても」とあえてこの点は留保しています。そして,「後記4(2)」では何が記載されているかというと,58年大法廷判決において,都道府県を選挙区の単位とすることは相応の合理性を有していたが,人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続しているという現在の状況においては,都道府県を選挙区の単位とする仕組み自体を見直すことが必要である旨が説かれているのです。

 

  これまで,参議院議員定数不均衡問題に対して,立法府は,都道府県を選挙区とする枠組みは維持した上で,概ね較差が15.00未満になるように,定数を88減とか,44減とか調整することで対応してきました。上記の多数意見の「後記4(2)の点をおくとしても」という留保は,「立法府が今までのような弥縫策に終始するのでは,将来的に選挙無効判決を下すことも辞さない。」という,最高裁の強いメッセージが込められているように私には思えました。

 

  ところが,今朝の日本経済新聞によると,「違憲でも大混乱になるので選挙無効までは言い渡さないはずだ。」と強弁する議員がいるとのこと。この先生には、今回の大法廷判決をぜひしっかり読みこんでいただきたいと思います。

 

hy

 

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