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2012年10月13日 (土)

刑事訴訟の控訴審について

  少し前の話になりますが,9月26日,いわゆる陸山会事件に関する小沢一郎氏の政治資金規正法違反被告事件の控訴審が1回で結審し,判決言い渡し日が1112日に指定されたとのニュースが報じられていました。

 

  第一審の無罪判決に対して,検察官役の指定弁護士が控訴し,控訴審の第1回公判で,指定弁護士が証拠調べの請求をしたところ,裁判所は証拠調べの請求を却下し,控訴審は1回で結審したとのことです。

 

このニュースを聞いて,刑事訴訟の控訴審における事後審制ということが,ふと頭に思い浮かびました。

 

一般に,民事訴訟,刑事訴訟を問わず,第一審判決に不服がある場合は,控訴することができます。しかし,その控訴審における審理の在り方は,民事訴訟と刑事訴訟では異なるといわれています。

 

民事訴訟の控訴審は続審であるのに対して,刑事訴訟の控訴審は事後審であるといわれています。「続審」というのは,辞書的に言えば,第一審における訴訟資料を控訴審がその訴訟資料として承継した上,更に新しい訴訟資料も補充して審理を続行することをいい,「事後審」というのは,第一審の記録を基に,第一審判決の当否を事後的に審査することをいいます。

 

刑事訴訟の控訴審が事後審であることについては,昭和46324日の最高裁大法廷判決で,次のように示されています。

 

「…刑訴法はさらに控訴審の性格を原則として事後審たるべきものとしている。すなわち,控訴審は,第一審と同じ立場で事件そのものを審理するのではなく,前記のような当事者の訴訟活動を基礎として形成された第一審判決を対象とし,これに事後的な審査を加えるべきものなのである。」

 

 つまり,刑事訴訟における控訴審の審判の対象は,事件そのものではなく,第一審判決の当否であるということになります。

 

 ところで,上記の最高裁大法廷判決は,「控訴審の性格を原則として事後審たるべきものとしている。」と述べています。この「原則として」とはどういう意味でしょうか。これが,破棄自判の問題です。

 

 控訴審が事後審であり,審判の対象が第一審判決の当否ということであれば,控訴審が「第一審の判決は不当だ」と判断した場合,審理をやり直せと第一審に差し戻すことが原則となりそうです。

 

 しかし,刑事訴訟法400条ただし書きは,次のように規定していて,原判決を破棄した上で,控訴審自ら判決をする破棄自判を認めています。

 

 「但し,控訴裁判所は,訴訟記録並びに原裁判所及び控訴裁判所において取り調べた証拠によつて,直ちに判決をすることができるものと認めるときは,被告事件について更に判決をすることができる。」

 

 このように,控訴審で破棄自判ができるということになると,それは,第一審判決の当否のみを審理しているのではなく,事件そのものを審理していることにほかなりませんから,「事後審」という建前に相反するように思われます。

 この点,最高裁は,有名な三鷹事件大法廷判決で次のように述べて,破棄自判は事後審ではないということを認めています(昭和30.6.22)。

 

 「そして右自判の制度は,控訴審が本来事後審として第一審判決の当否を判断するものであることに対し,例外的に続審による判決手続を認めたものであつて…」

 

 ただ,制度上例外とはいっても,統計的に見ると,破棄判決のうち圧倒的多数は破棄自判であって,破棄差し戻しや破棄移送はとても少ないと言われています。

 

 ところで,この破棄自判,常に許されるかというと,判例法上の制約があります。第一審判決が犯罪事実の存在を確定せず無罪を言い渡した場合,控訴審がなんら事実の取り調べをすることなく第一審判決を破棄し,訴訟記録及び第一審にて取り調べられた証拠のみによって直ちに犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることはできないという趣旨の最高裁判例があります(S31.7.18)。

この判例は,事実認定を変更した場合のことを言っているので,事実認定を変更せずに法令適用の誤りで第一審判決を破棄し自判する場合には適用はないとは思いますが,何が法律判断で何が事実認定なのかは明確な線引きは困難な場合があるでしょう。

 

さて,以上を小沢氏のケースに当てはめてみますと,以下のようになるかと思います。小沢氏の裁判では,虚偽記入の違法性を認識していなかったことが無罪判決の理由と報じられています。これが,事実認定の問題なのか,法律判断なのか,正直言ってよくわからない面がありますが,仮に事実認定の問題だとした場合,次のようになるかと思います。

 

仮に,控訴審が,第一審判決を妥当だと判断した場合(小沢氏無罪だと判断した場合)は,控訴棄却。

仮に,控訴審が,第一審判決を不当だと判断した場合(小沢氏有罪だと判断した場合)は,控訴審で事実の取り調べをしていないことから,破棄自判の有罪判決を下すことはできず,破棄差し戻しで審理が東京地裁に差し戻される。

 

つまり,いずれにせよ,1112日のニュースで,「小沢氏,高裁で逆転有罪判決!」ということにはならないということです。さて,私の分析が果たして正しいのか。来月の判決が待たれます。

 

hy

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