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2012年10月26日 (金)

犯罪場所の特定

    1・2週間前の新聞に,兵庫県迷惑防止条例違反容疑で逮捕された容疑者について,東京区検察庁は,犯罪場所を特定できないことを理由に同容疑者を釈放したという記事が掲載されていました。

 

  この容疑者は,高松発羽田行の航空機内で,客室乗務員のスカート内をボールペン型カメラで盗撮した容疑で逮捕されたとのことです。

 

  警察の捜査段階では,盗撮があった時刻を午前89分頃と特定し,その頃,その航空機は兵庫県上空を飛行中であったとして,兵庫県迷惑防止条例を適用したところ,実際には,盗撮があった時刻を裏付ける証拠がなかったため,犯行場所を兵庫県上空であると認定できず,同条例の適用ができないものと検察庁において判断されたようです。

 

  一般に,捜査機関が行う取り調べの大原則として,取り調べに際しては,いわゆる「六何の原則」を落としてはならないということがよく言われます。「六何の原則」とは,5WH,つまり,犯罪について,「いつ」,「だれが」,「どこで」,「何に対して(誰に対して)」,「何を」「どうしたか」,という犯罪構成要件の六要素です。

 

  そして,検察官は,起訴状に公訴事実を記載するわけですが,公訴事実は,訴因を明示しなければならず,訴因を明示するためには,できる限り,日時,場所及び方法をもって罪となるべき事実を特定してしなければならないと刑事訴訟法256条に規定されています。

 

  この起訴状において「罪となるべき事実の特定」を要求する刑訴法の趣旨ですが,おおまかにいって,裁判所に対して,検察官が求めた審判対象を画定することと,被告人に対して,防御の範囲を特定することを目的としていると思われます。

 

  そうすると,高松から羽田まで飛行機で1時間そこらしかかからないでしょうから,例えば,「被告人は,平成24年9月10日午前8時ころから9時ころにかけて,高松空港発東京国際空港行日本航空1402便の機内座席○番付近において,…」などとすれば,「罪となるべき事実の特定」としては十分であるように思います。

 

  しかし,冒頭の新聞記事で問題とされたのは,「罪となるべき事実の特定」の問題ではなく,条例の効力が及ぶ場所的範囲の問題なんですね。

 

  「現役裁判官が迷惑防止条例違反(盗撮)容疑で逮捕」などというニュースもつい先日ありましたが,この迷惑防止条例,各都道府県が(あるいは一部市町村も)各々制定し公布しているものなので,正式な名称はさまざまのようです。兵庫県の場合,「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」という名称のようです。

 

  そして,私は調べたことはありませんが,この迷惑防止条例,すべての都道府県に存在するそうです。そして,条例の名称も内容も様々とはいえ,相当の部分において似通っている面もある。少なくとも,公共の場所・公共の乗り物内での女性に対する盗撮や痴漢行為(強制わいせつに至らない程度のもの)は,どの都道府県の条例においても犯罪とされているように思われます。

 

  兵庫県の場合,「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止…」という題名がつけられているので,一見すると盗撮とは関係なさそうに見えます。兵庫県の条例の施行時の附則を見ると,「押売等防止条例(昭和31年兵庫県条例第70号)は廃止する。」と規定されているので,当初は,威力的な押売とか歓楽街における不当な客引きなどをこの条例は規制対象としてスタートしたのだろうと推測できます。

 

  ところで,条例制定権は,憲法が各地方自治体に与えている権能ですが,その効力が及ぶ範囲は,原則として,当該条例を制定した地方自治体の場所内に限られます。

 

  そうすると,47都道府県すべてにおいて,航空機内での盗撮が各条例で犯罪行為とされているとしても,適用されるべき条例は,盗撮行為が行われた場所に効力が及んでいる条例(犯罪地が兵庫県なら兵庫県の条例)ということになり,どの都道府県の条例が適用されるか,つまり,どの都道府県で盗撮が行われたかが,立証される必要があるということになります。

 

  しかし,それでは,今回の報道のような航空機内とか新幹線のような高速鉄道車内での盗撮については,適用が難しい場面が多々出てくるでしょうね。

 

  迷惑防止条例の沿革からすると,各都道府県がその実情に合わせて規制する内容も多く含まれるようですが,少なくとも,現在においては,盗撮行為は,条例ではなく法律で一律に規制してもしかるべき行為類型にように思われます。

 

  私が参照した新聞記事では,警視庁幹部の言として,「都道府県条例以外に,旅客機内での盗撮行為を取り締まる法制度の整備が求められる。」との指摘が紹介されていました。

 

  そうそう,ここまで書いて思い出しましたが,私が高校生のころは,原動機付自転車(50ccバイク)のヘルメットの着用義務は,各都道府県でまちまちでした。少なくとも,神奈川県は着用義務がなく,東京都は着用義務がありました。当時,各メーカーがMTの50ccバイクを出しており,私は神奈川県住民として楽しく乗っておりましたが,ノーヘルで乗れるのは多摩川まで。ノーヘルで川崎側から東京側へ丸子橋を渡ってしまうと,橋のたもとの交番の警察官に見つかってしまいます。おそらく,当時は,各都道府県公安委員会で,それぞれ,原動機付自転車のヘルメットの着用義務の有無を決めていたのだと思います。

 

  現在では,法律で一律に規制されています。道交法71条の4第2項は次のように規定しています。

 

 「原動機付自転車の運転者は,乗車用ヘルメットをかぶらないで原動機付自転車を運転してはならない。」

 

  盗撮についても,将来的には,法律で全国一律に規制されることになるかもしれません。

 

hy

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