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2012年11月24日 (土)

自転車で事故→免停

  先日の新聞に,自転車でオートバイと接触事故を起こし,オートバイの運転者にけがをさせ,そのまま逃走した男に対し,奈良県警が自動車運転免許の停止処分を課したとの記事がありました。

 

  最初は,「ひき逃げで免停というのは珍しくないなぁ。なんで記事になるんだろう。」と思っていましたが,「自転車」というのを読み落としておりました。自転車で事故を起こした人に対し,その人の自動車運転免許について免許停止を課したということです。これは非常に珍しいことだと思います。記事を読んだときは,「こんなことができるのだろうか?」という印象を持ちました。

 

  道路交通法841項は,「自動車及び原動機付自転車(以下「自動車等」という。)を運転しようとする者は,公安委員会の運転免許(以下「免許」という。)を受けなければならない。」と規定しています。逆に言えば,自転車を運転するのに運転免許は不要ということです。

 

  運転免許の取消し,停止については,同法の103条以下に規定があります。1031項本文は次のように規定しています。

 

 「免許(…)を受けた者が次の各号のいずれかに該当することとなつたときは,(…)公安委員会は,政令で定める基準に従い,その者の免許を取り消し,又は六月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる。」

 

  免許取消し,停止の事由は1031項に列挙されているわけですが,本件に関係ありそうなのは,同項5号,7号,8号と思われます。

 

  まず,5号は,次のように規定しています。

 

 「自動車等の運転に関しこの法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこの法律の規定に基づく処分に違反したとき(カッコ書きは省略)。」

 

  冒頭の記事では,自転車を運転中オートバイに接触して運転者にけがをさせたがそのまま逃走したとされていました。道交法で問題となるとすれば,72条の救護義務違反です。これは,交通事故の際に,車両等の運転者・乗務員に課せられる義務で,「車両等」には自転車も含まれます(ただし,同法1171項は,「車両等」から「軽車両」を除外しているので,自転車の運転者が救護義務に違反しても刑事罰は科せられないということだと思います。)。

 

  しかし,免許取消し・停止の要件を規定する10315号は,「自転車等の運転に関し」と規定しています。「自動車等」というのは,841項で「自動車及び原動機付自転車(以下「自動車等」という。)」と規定されていますので,自動車と原動機付自転車を指すわけで,自転車(電動アシスト付自転車も「自転車」です。)は含まれない。従って,自転車を運転していて救護義務に違反したとしても,「自動車等の運転に関しこの法律に違反したとき」には該当せず,5号の適用はないように思えます。

 

  次に,7号は,次のように規定しています。

 

 「道路外致死傷をしたとき(カッコ書きは省略)。」

 

  「道路外致死傷」というのは,道交法9015号で定義されていて,道路以外の場所において自動車等をその本来の用い方に従つて用いることにより人を死傷させる行為で,故意によるもの又は刑法の危険運転致死傷罪にあたるもの以外のものをいいます。

 

  オートバイとの接触事故が道路外によるものか否かについて,冒頭の記事は言及していませんが,仮にそうだとしても,「道路外致死傷」の定義では「自動車等」と規定されていますので,自転車の運転による死傷は含まれないと思われます。従って,7号の適用もないと思います。

 

  最後に,8号は,次のように規定しています。

 

 「前各号に掲げるもののほか,免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき。」

 

  いわゆるバスケット条項ですね。「免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある」というのは非常に抽象的な要件です。ここでも,「自動車等」と規定されているので,自転車は含まれませんし,そもそも自転車に運転免許の制度はありません。

 

ただ,「自転車を運転し事故を起こし相手にけがをさせた」→「にもかかわらず救護義務を怠り立ち去った」→「そういう人は(免許を受けた)自動車を運転する場合にも交通の危険を生じさせるおそれがある。」というロジックは必ずしも経験則には反していないようにも思えるので,この条項を用いて免許停止処分を下したのかな,とも思われます。

 

  しかし,このような抽象的なバスケット条項に基づき,しかも自転車運転に係る事故に起因して自動車運転免許の停止処分を下すというのは,やはり異例ですね。私が公安委員会側の人間でしたら,こんな処分こわくて下せない。被処分者に争われた場合,奈良県公安委員会としては十分勝ち目があるという判断なんでしょうね。  

hy

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