新家事事件手続法と離婚調停の運用の変更
昨夜は張り切って帰宅ランしましたが,今朝さっそく筋肉痛が出て,つらいです。
さて,家事事件手続法(平成23年法律第52号)が,来年の1月1日から施行されます。現行の家事審判法は昭和23年施行で,条文数もわずか31か条の法律ですが,新家事事件手続法は293か条もある大きな法律です。家事事件に関する大改正ということがいえるでしょう(そして,家事事件手続規則も140か条もあります。)。
現行の家事審判法,新家事事件手続法が取り扱うのは,家事審判,家事調停に関する事件です。家事調停といえば,一番ポピュラーなのが,離婚調停(夫婦関係調整調停)かと思います。新家事事件手続法(そして非訟事件手続法及び関係法律整備法も)は来年1月1日から施行されますが,関係法律整備法中経過規定によると,施行前に家事調停の申立てがあった事件はなお従前の例によるとされていますので,来年1月1日以降申立てた離婚調停については,新法,それ以前の申立てについては旧法が適用されることになります。
新家事事件手続法がなぜ制定されたのか,法案提出時の理由では,「家事事件の手続を国民にとって利用しやすく,現代社会に適合した内容のものにするため…」と述べられています。やや具体的にいうと,①家事事件手続の透明化,手続保障,②現代社会に適合した手続の整備,③子どもの地位強化,などが新法の目玉とされているようです。
離婚調停については,弁護士に依頼せず,当事者自らが申立てをしたり,家裁に出頭するということが広く行われていると思われ,「離婚調停とはこういうものだ。」という共通理解もある程度一般の方にも浸透していると思います。ここでは,新法施行に伴い導入された制度,運用の変更予定について二つほど取り上げたいと思います。いずれも,従来の離婚調停から大きく変更される点です。弁護士に依頼せず離婚調停を利用しようと考えている方にとっては,注意が必要です。
一つ目は,申立書の相手方への送付です。
従来の離婚調停では,申立人が裁判所に提出した申立書は,相手方に送付されていませんでした。相手方には,裁判所から,「夫婦関係調整調停が申立てらました。期日は○月×日です。」と通知がなされるだけでした。従って,申立人がどういう理由で調停を申立てたのか,何を求めているのかなどについては,第1回調停期日前には,相手方にはわかりませんでした。
新法では,申立書は原則として相手方に送付されるものとしています。新法256条1項本文は,
「家事調停の申立てがあった場合には,家庭裁判所は,…家事調停の申立書の写しを相手方に送付しなければならない。」
と規定しています。ただし,例外も設けられていて,家事調停の円滑な進行を妨げるおそれがあると認められるときは,送付不要とされています。
申立書が原則として相手方に送付されるということになったことで,実務上一番注意すべき点は,申立人の住所の記載だと思います。申立人の中には,相手方と別居し,相手方から逃れて生活している,相手方には現在の住所を知られたくないという方もいます。そのため,住民票を移さないでいるという人もいるでしょう。
しかし,新法では,申立書は原則として相手方に送付されます。申立書には,申立人の住所を記載する必要があります。
「申立書は相手方に送付されない。」
という従来の離婚調停の手続のままの理解で,申立書にうっかり現在の住所を記載してしまうと大変なことになりかねません。相手方に現在の住所を知られてしまうからです。
それでは住所欄は空欄にして申立書を提出してよいかというと,家庭裁判所はそのような申立書を適法とは認めません。申立人本人を特定できないからです。
では,どうすればよいかというと,相手方に知られてもかまわない,かつて生活していた旧住所を記載するほかないことになります。そして,「連絡先等の届出書」を別に裁判所に提出し,そこには,「連絡先(書類送付先)は申立書記載の住所以外の場所にしてくれ。」と届け出て,かつ,(ここが新法で重要なところですが)この届出書の上に「非開示の希望に関する申出書」というものをくっつけ,一体の書面として綴じる必要があります。このようにして,はじめて,連絡先(申立人の現在の住所)が相手方に知られないことになります。
新法での変更点の二点目は,双方当事者本人の立会いが原則となるという点です。
これは,法律で規定されているわけではなく,新法施行に伴い,裁判所が運用を変えるということです。
従来の離婚調停では,申立人と相手方ができるだけ顔を合わさないような配慮がなされていました。具体的には,申立人と相手方の待合室を分け,まず,申立人が調停室で調停委員と話をし,それが終わると,申立人は退席し,調停委員が待合室にいる相手方を呼びに行き,相手方と調停委員が調停室で話をし…というような運用がなされていました。
ところが,新法下の離婚調停では,双方当事者の立会いが原則になる運用を家庭裁判所は考えているようです。
具体的には,各調停期日の冒頭と終わりに,申立人と相手方を調停室に呼び入れ,調停委員の前で立ち会わせ,手続の説明や,次回期日までの当事者双方の課題を整理して説明することなどが想定されています。
つまり,各期日の冒頭と終わりに手続面について説明をする際に立ち会わせるだけで,期日中ずっと当事者同席のもとで調停を進めるということではないと裁判所は説明しています。つまり,同席調停ではないということです。
ただ,いずれにせよ,期日ごとに当事者が立ち会うのが原則となります。離婚の相談を受ける場合,離婚を求める一方当事者は,たいていの場合,相手方の顔も見たくないといいます。「調停の席では相手方と顔を合わすことはないですよね?」という質問をよく相談者から受けます。いままでは,「はい,相手方と顔を合わせる必要はありません。安心してください。」と答えていればよかったのですが,新法下の運用では,
「いいえ,各期日の冒頭と終わりに当事者が立ち会う必要があります。」
と答えることになります。
この当事者立会いの運用は,弁護士に依頼した場合でも妥当します。つまり,弁護士に依頼しても,相手方の顔を見ることは避けられません。
従来の離婚調停の運用しか知らず,「離婚調停においては相手方配偶者と顔をあわせる必要はない。」と考えていると,新法下では,期日当日相手方との立会いを促されビックリするということにもなりかねませんので,注意が必要でしょう。
もちろん,この当事者立会いの運用ですが,相手方が暴力をふるうおそれがあるなどの場合は,例外的に立会い不要となります。
(hy)
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