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2012年12月25日 (火)

神奈川県企業税訴訟

先週末の山田町復興 皇居クリスマスチャリティーマラソン,ご参加の皆様,スタッフの皆様,お疲れさまでした。冷たい雨の中,私も頑張って走りましたよー。それにしてもツラかった。

 

  さて,先週の木曜日,神奈川県が独自に制定した「臨時特例企業税」条例は違法だとして自動車メーカーが訴えた訴訟の上告審で,最高裁第1小法廷は,来年218日に弁論を開くことを決めたとの記事が新聞に掲載されていました。

 

  これで,神奈川県の主張を認めた控訴審判決が見直される公算が強くなりました。

 

  地方税法4条は,2項で,道府県は,普通税として次に掲げるものを課するものとする,と規定した上で,3項で,

 

 「道府県は,前項各号に掲げるものを除くほか,別に税目を起こして,普通税を課することができる。」

 

 と規定しています。いわゆる,道府県法定外普通税と呼ばれるものです。

 

  問題となっているのは,平成15年改正前の法人事業税の課税標準のあり方との関係です。当時の地方税法は,法人事業税の課税標準としての各事業年度の所得につき,各事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額によるものとし,当該各事業年度の法人税の課税標準である所得の計算の例によって算定すると規定していました。

そして,法人税法では,内国法人の各事業年度開始の5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には,当該欠損金額に相当する金額は,当該事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入すると規定していました。

 

これに対して,神奈川県臨時特例企業税の課税標準は,「各課税事業年度における法人の事業税の課税標準である所得の金額の計算上,繰越控除欠損金額を損金の額に算入しないものとして計算した場合における当該各課税事業年度の所得の金額に相当する額(…)とする。」とすると定められました。

 

つまり,県内の資本金5億円以上の法人に対し,法人事業税の課税標準である所得金額の計算上,繰越控除欠損金額を損金の額に算入しないものとして計算した場合の各課税事業年度の所得の金額に相当する金額を課税標準とし臨時特例企業税を課す条例を神奈川県が制定しました。これが平成13年。この条例に基づく課税処分の対象となった自動車メーカーが,課税処分の無効,納付済みの企業税等の還付を求めた訴訟を横浜地裁に提起したのが平成17年,その上告審が現在最高裁に係属しているというわけです。

 

  この訴訟は,いろいろな意味で,注目されています。

  条例に基づく課税処分に関し,企業が課税当局に対抗し提起した大規模税務訴訟といえば,いわゆる東京銀行税訴訟が著名ですが,本件訴訟も,地方財政に与える影響は相当に大きいものと言われています。有斐閣の平成22年度重要判例解説で本件控訴審の解説を書かれている論者によれば,

 

 「…直接争われているのは約19億円であるが,争点が課税の根拠となった条例の違法・無効であることから,仮に神奈川県の敗訴が確定すれば,数百億円の還付が必要とも言われている。」と指摘されています。

 

  また,意見書合戦の様相を呈している点も,本件訴訟が注目される理由の一つでしょう。控訴審判決は,「第3 当裁判所の判断 2」の冒頭の箇所で,以下のように述べています。

 

 「本件においては,当事者双方から多くの行政法・税法学者を中心とする専門家の意見書等が証拠として提出されている。それらは,被控訴人の主張を結論として支持するもの(碓井光明,金子宏,岡田正則,武田昌輔,宇賀克也,長谷部恭男,水野忠恒,いずれも甲号証)と控訴人の主張を結論として支持するもの(品川芳宣,三木義一,兼子仁,中里実,人見剛,占部裕典,高木光,阿部泰隆,吉村政穂,鈴木庸夫等,いずれも乙号証)とに,大きく二分されており,…」

 

  そうそうたるメンバーですね。学者の間においても,非常に注目度が高い訴訟ということなのでしょう。

 

  さらに,本件訴訟は,「法律と条例の関係」という憲法上の著名論点が問題とされている点においても,注目すべき訴訟と言えます。

 

  憲法94条は,「地方公共団体は,…法律の範囲内で条例を制定することができる。」と規定しているわけですが,どのような場合に条例と法律が矛盾抵触するか否かについて,最高裁大法廷は,有名な徳島市公安条例事件判決で,次のように述べています。

 

 「条例が国の法令に違反するかどうかは,両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく,それぞれの趣旨,目的,内容及び効果を比較し,両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない。」

 

  この点,本件控訴審判決も,この徳島市公安条例事件最高裁判決を引用しているのですが,控訴審判決は,次のように述べて,最高裁判決とはちょっとニュアンスの違うようなことを述べている感じもします。

 

 「ここで,「矛盾抵触」というのは,…単に両者の規定の間に大きな差異があるとか,一方の目的や達成しようとする効果を他方が部分的に減殺する結果となることをいうのではなく,一方の目的や効果が他方によりその重要な部分において否定されてしまうことをいうものと理解される。」

 

  「その重要な部分において否定されてしまうことをいう。」という基準については,徳島市公安条例事件大法廷判決は言及していないので,控訴審判決が独自に打ち立てた基準とも言えそうです。この点も,最高裁がどのように判断するのか注目されます。

 

  本件訴訟は,重要論点を多数含むもので,私のような浅学菲才の身では論じる資格もないかもしれませんが,一つ述べるとすれば,地方税法の枠組み・建付けからすると,神奈川県の主張は苦しいのではないかと感じています。 

法定外税は道府県の課税権に基づくとはいえ,その行使は地方税法上のルールにのっとってされなければならないという点は,本件地裁判決も指摘しています。その地方税法は,上述したとおり,法人事業税の課税標準を法人税と同様の計算方法としています。

法人税の課税標準である所得の計算において,欠損金額の繰越控除が定められている趣旨は,事業年度ごとの所得によって課税したのでは,所得額に変動があることを考慮すると,ある一事業年度において税負担が過重となったり(あるいは逆にならなかったり)するため,法人の所得を長期的に把握し法人の担税力を所得課税に反映させるためであるという点は,あまり異論がないように思われます。そうだとすれば,地方税法において課税標準の計算方法を法人税と同様にすると規定されている法人事業税における欠損金額の繰越控除が認められている趣旨も,法人税と同様である(と少なくとも地方税法の立法者は考えている。)とみるのが素直でしょう。それを全国一律に規定しているのが地方税法というわけです。

本件訴訟における神奈川県の主張は異なるようですが,県知事が企業税新設について協議の申し出を総務大臣にした際の理由書に記載されているように,企業税の目的は,「本件といたしましては,外形標準課税が導入されるまでの臨時的,かつ特例的な措置として,県の行政サービスを受け当期利益が黒字になっているにもかかわらず,欠損金の繰越控除制度により,法人事業税について税負担が生じない法人について相応の負担を求めるため,…」という点にあるのでしょう,少なくとも本音は。つまり,欠損金の繰越控除制度に風穴を当てたいということです。仮に,この企業税のような課税を「地方税法」が認めているとすれば,欠損の繰越控除制度を全国一律で定めているという規定方法にはならないのではないか,道府県ごとに別段の規定を設けることを許容する規定方法が選択されるのではないか,そうでない以上,やはり,地方税法は,全国一律の規定を予定していて,神奈川県企業税のようなものは認めない趣旨ではないか,と考えられるのではないでしょうか。

 

勿論,本件訴訟は,全く別の論点,すなわち地方分権や,地方の課税権を広く認めるべきであるという政策的論点も存在します。しかし,そうであれば,地方税法の建付けや枠組みを改めなければ抜本的な解決にはならないように思われます。

 

以上,数多くの着目点がある本件訴訟,最高裁がどのような判断を下すか,待たれます。

 

http://yamato-law-accounting.com/

hy

 

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