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2013年1月11日 (金)

東電,消滅時効援用せず

 

  平成25年に入っての最初のブログ更新となります。本年一年も,よろしくお願いいたします。

 

 

 

さて,昨日,東京電力が,福島第一原発事故に基づく損害賠償請求について,消滅時効の援用をせず,時効完成後の請求も認める方向であるとのニュースが報じられていました。

 

 

 

平成23311日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電施設の事故に基づく東京電力の損害賠償責任については,以前このブログでも取り上げましたが,中心となる法律は,「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)です。

 

 

 

ところが,この原賠法には,原子力事業者の損害賠償責任について,特別な期間制限に服する旨の規定がありません。原賠法は不法行為責任に関する民法の特則と考えられていますので,不法行為に基づく損害賠償請求権一般に関する民法724条の適用があると考えられています。民法724条前段は,

 

 

 

「不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは,時効によって消滅する。」

 

 

 

と規定しているので,東電に対する損害賠償請求権も,3年の消滅時効にかかることになります。

 

 

 

 消滅時効の期間については,原発事故の被害者の方々も非常に気にされていました。以前,私が福島県の仮設住宅に法律相談に伺った際にも,「ところで,請求はいつまでできるのですか?」という質問を多く受けました。

 

 ニュースによれば,この消滅時効を東電は援用しないとのことですが,そもそも,消滅時効という制度,なぜ存在するのでしょうか。

 

 

 

 民法のテキストには,消滅時効の存在理由として,①一定の期間にわたってあたかも債務がないような状態が続いてきたのだからそれを尊重しようという「事実状態の尊重」とか,②時間が経過すると証拠が散逸するので証明の困難は大きくなることから,一定の時間の経過をもって証明を免除しようという「証明の困難からの救済」が理由として挙げられることが多いようです。

 

 しかし,このような説明を聞いても,あまりスッキリとは理解できません。理論的に一義的に割り切れるものではなく,歴史的に展開,維持されてきた制度ということなのだと思います。ちなみに,明治初期には,時効制度は,

 

 

 

「期満得免」

 

 

 

と呼ばれていたとのことです。期間が満了すると権利を得たり,義務を免れたりするという意味合いでしょうか。

 

 

 

 さて,この消滅時効ですが,一定の期間(不法行為の場合は3年)が経過しただけでは,時効の効力は生ぜず,当事者の援用が必要とされています。つまり,援用がなされて初めて時効の効果(債務の消滅)が確定的に生ずるのであって,時効期間の満了によって自動的に効果が発生するわけではないということです。

 

 

 

 原発事故の被害者が,東電に損害賠償請求をした場合,3年の時効期間が満了した後であっても,東電が時効を援用しない限り,つまり,消滅時効の主張をしない限り,損害賠償請求権は消滅していないことになります。時効の効力を発生させるか否かは,東電の援用に係っているわけで,冒頭のニュースは,東電は援用しないと報じているわけです。

 

 

 

 このように,時効の効力を受けることを積極的に止めることを

 

 

 

 「時効利益の放棄」

 

 

 

といいます。

 

 

 

 ところで,この「時効利益の放棄」には,一つ問題があります。民法146条は,

 

 

 

 「時効の利益は,あらかじめ放棄することができない。」

 

 

 

と規定しています。時効の利益の放棄を事前にすることはできないということです。従って,東電が,法律上意味のある「時効利益の放棄」をするためには,時効期間3年の経過後にしなければなりません。

 

 

 

 「そんなの簡単じゃないか。地震のあったのは平成23311日だから,その3年後以降に東電が時効利益の放棄をすればいいだけでなないか。」

 

 

 

というわけにはいきません。時効期間の起算点は,そんなに単純なものではないのです。例えば,放射能の影響が,事故発生後相当の期間を経て身体に出るなど晩発性の損害の場合,地震発生時を時効期間の起算点とすることは妥当ではないと思います。民法724条は,時効期間の起算点を

 

 

 

 「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から」

 

 

 

と規定していて,「不法行為の時から」とは規定していないのです。晩発性の損害の場合,後日損害の発生を被害者が知った時から時効が進行することになるということです。

 

 

 

 そうすると,事故から3年経過していない現時点で,東電の社長が「消滅時効を援用しない。」と言ってみても,法律上意味のある「時効利益の放棄」にはならないし,あるいは,事故から3年経過した時点で同じような発言をしてみても,その時点で時効期間が満了していない被害者との関係では,やはり法律上意味のないことなのかもしれません。

 

 

 

 要は,「東電は,時効を援用しません。」と事実上の表明をしただけということなのでしょうか。東電や関連自治体,政府関係者は,冒頭のニュースの東電社長の発言の法的意味についてどう考えているのでしょうかね。

 

 

 

 さて,不法行為に基づく損害賠償請求期間について,もう一つ重要な問題が「除斥期間」の問題です。民法724条後段は,

 

 

 

 「不法行為の時から二十年を経過したときも,同様とする。」

 

 

 

と規定しています。これは,当事者の援用は必要ではなく,期間が経過しただけで,被害者の損害賠償請求権は消滅するということです。

 

 

 

20年はまだ先のことですが,将来的には,この除斥期間の問題も必ずクローズアップされることになると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

http://yamato-law-accounting.com/

 

hy

 

 

 

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