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2013年2月12日 (火)

自転車事故と過失相殺

   東京地検は今年に入って,自転車の交通違反に対する方針を大きく転換したというニュースが,先週報じられていました。社説で取り上げる新聞もありました。

 

  東京地検の方針転換は,悪質なルール違反を繰り返す自転車運転者に,刑事罰を科す厳しい姿勢で臨むというもののようです。新聞報道によれば,東京地検は,これまで原則として違反者を一律不起訴にしてきたが,運用見直しにより,2回目の違反からは道路交通法違反で略式起訴をすることになり,当面は,重大事故の主たる原因となっている信号無視を中心に略式起訴するということのようです。

 

  他方で,自転車事故に関する痛ましいニュースも最近いくつか目につきました。例えば,今月4日の川崎市の事故では,母親の運転する3人乗りの自転車が転倒し,後部座席に乗っていた長女が放り出され,トラックに轢かれてしまったというものです。

 

  一部報道によれば,東京都内では,全交通事故のうち,4割近くが自転車のかかわる事故ということのようです。身近な乗り物だけに,事故の場合どのような責任が問題となりうるのか,みなさんの関心も最近高まりつつあるように感じています。

 

  自転車事故,特に自転車と歩行者との事故における民事責任(損害賠償責任)について,自動車事故と比べた場合,大きく異なる点が二つあります。

 

  一つ目は,自転車には強制保険制度がないことです。

  自動車の場合,自動車損害賠償保障法によって,いわゆる自賠責保険又は自賠責共済の契約が締結されているものでなければ,自動車は,運行の用に供してはならないとされています。

  自動車による人身事故があった場合,被害者は,当該自動車に係る自賠責保険会社に対して,直接損害賠償請求ができます。

 

  他方で,自転車事故の場合,強制保険制度はないので,任意保険に加入していなければ,運転者は,被害者に対して,直接損害賠償義務を負うことになります。仮に死亡事故であれば,損害賠償額は大きな額になりえます。

 

  二つ目の異なる点は,自動車の場合と違い,自転車は,歩道走行が許容されている場合もあるという点です。確かに,自転車も,道路交通法上の「車両」に該当するため,車道走行が原則ですが,例外として歩道が走行できる場合があるということは,以前このブログでも話題にしたことがあります。また,実態としても,我々の身の回りで,自転車が歩道を走行することはごく普通のこととなっています。

 

  そうすると,自転車と歩行者の事故の場合,自動車と歩行者の事故と比べて,運転者の責任や過失割合について,自動車と異なる基準で考えるべきなのではないかという議論が出てくる可能性があります。

 

  自動車事故に比べ,自転車と歩行者の事故は,従来は裁判例も少なく,自転車事故の運転者の責任について,深い考察がなされてきたとは言えないと思いますが,近時は,着目すべき研究がいくつかあるようです。

 

  この点,手元にある『交通事故損害賠償実務の未来』(法曹会)では,交通事故関係訴訟を集中的に扱っている横浜地裁第6民事部の裁判官が,自転車事故と過失相殺をテーマにしており(同書P168以下に所収の基調報告),示唆に富みます。

 

  この論稿は,自転車の通行方法に関する規程が整備された平成19年道交法改正の直後に書かれたもののようですが,道交法のルールについての自転車運転者の認識について,次のように述べています。

 

 「19年改正によって,自転車の歩道通行要件の見直しが行われたが,道交法の定める自転車交通のルールの理解ないし認識している者は未だほとんどいないと思われる。」

 「現時点においては,道交法の定める交通ルールをそのまま適用するのではなく,事実としての交通慣習等に従った自転車交通の実情を認めた上で,過失相殺基準を検討するにあたっても,これを相当程度斟酌せざるを得ないと考えるべきであろう。」

 「…自転車が歩道を走行すること自体は,今のところ,一部容認ないし黙認されている…」

 

  歩行者側の立場からすると,歩道を縫うように走る自転車の走行を容認・黙認したつもりはさらさらないのですが,この論稿を書いた裁判官は,社会的実態をそのように捉えているようです。一応,「現時点においては」と留保をつけていますが,平成25年の現時点においても,自転車の歩道走行の実態はあまり変わっていないように個人的には思われますので,道交法違反で歩道を走行したこと自体を自転車側に重く不利益に考慮することは相当ではないというのが,この裁判官の考えのようです。

 

  それにしても,道交法を知る自転車運転者はほとんどいないのだ,と言い切ってしまう筆の勢いはすごいですね。何か統計的な裏付けでもあるのでしょうか。

 

  また,この論稿では,自転車の種別と過失相殺について,次のように述べています。

 

 「自転車の中にもスポーツ用の自転車からいわゆるママチャリと呼ばれるものまで,種々の形態・性能のものがあるが,事故との関係で考慮されるべきは,実際の走行速度であって,自転車の種類の相違自体によって過失割合率を変化させる必要等はないと考えられる。」

 「安定性や操作容易性の点について,具体的な事案に応じて特に問題となる場合もあり得ようが,一般論としては,格別の考慮をする必要はないと思われる。」

 

  裁判官が「ママチャリ」なんて言葉を使うのは面白いと思いましが,自転車の形態・性能が過失相殺に影響しないという点は,違和感を持ちました。3人乗りの電動アシスト付自転車だと,大人一人,幼児二人と自転車の重量をあわせると100kg近くになると思われ,当てられた歩行者の衝撃は相当なものになるでしょうが,少なくとも一般論としては,自転車の形態・性能は過失相殺率の算定に影響を与えないということのようです。

 

  さらに,この論稿では,自転車と単車との比較について,次のように述べています。

 

 「自転車は,加害の危険性等の点について歩行者と単車との間に存在する乗り物として考えられ,また賠償資力が十分でないことなどにもかんがみれば,対歩行者事故の過失相殺率において,少なくとも単車の場合よりも自転車を不利に扱うことは妥当でないと考えられる。他方,自転車自体が前記のように,不十分な交通環境の中を,自動車の危険にさらされながら走行していることを考えれば,単車の場合よりも自転車に有利に考えてよいのではないかと思われる。」

 

  過失相殺は,公平の観点から損失を分担するものだと思いますが,その一般的な基準の考察において,「賠償資力が十分でないこと」という点を考慮する必要があるのでしょうかね。文字どおり読むと,自転車の運転者は強制保険も課せられていないし,賠償の資力がないから,一般論として,過失相殺の算定基準において,二輪車よりも優遇されるべきという主張に思えますが,その是非については,いろいろな意見があるように思いました。

 

  自転車事故に関しては,今後もいろいろな研究がなされていくでしょう,ということでこのブログをまとめようとしていたら,自転車に関して全く別の面白いニュースを見つけました。「市道の不備で高級自転車破損,市の賠償金138万円」というものです。これは,千葉県東金市の市道を走行していた自転車が道路わきの溝にはまって転倒し,自転車が破損したというものです。

 

  この自転車は,いわゆるリカベント(リュージュみたいな姿勢で乗る最近よく見かける自転車ですね。)で,手作り品だったため,賠償額が高額になったと,その記事では書かれていました。

 

  「スポーツ用の自転車やママチャリだけでなく,リカベントも走っている。」

 

 という複雑な交通実態を踏まえ,自転車事故に関する研究が今後ますます注目を浴びることになるのでしょうね

http://yamato-law-accounting.com/

hy

 

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