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2014年8月13日 (水)

窃盗犯人の顔写真の公開と脅迫罪,名誉棄損罪

 フィギュアや古書漫画を販売する古書店が,ブリキ製の「鉄人28号」を盗まれたとして,ホームページ上で,返さなければ顔を公開すると犯人に警告しているというニュースが,このところ報じられていました。

 結局,この古書店は,捜査に支障が出る旨の警視庁の要請を受けて,窃盗犯とされる男の画像公開を中止したそうです。

 ところで,この古書店の行為に対しては,いろいろ批判が上がっているということも併せて報じられていました。

 ある弁護士は,「警察の捜査を待ち,民事手続で返還を求めるのが正しい在り方」とのコメントを寄せたそうです。確かに,この方法は正攻法ですが,このようなことが可能であれば,わざわざホームページでの画像公開など必要ないわけです。

 犯人の住所・氏名がわかっていれば,警察に被害届を出すでしょうし,民事訴訟を提起すればよいということになります。しかし,犯人の画像はあるが,どこに住む誰かがわからないため,この古書店は苦肉の策を講じたはずであって,このような正攻法では対応できないと考えたのでしょう。警察の捜査を待てと言っても,犯人の画像それだけで警察が犯人を特定できるかは極めて難しいことでしょう。

 また,他の法律家は,この古書店の行為は,脅迫罪に該当しうると述べておりました。本当に脅迫罪が成立するのでしょうか。

 脅迫罪は,「生命,身体,自由,名誉又は財産に対し害を加える旨を告知」した場合に成立します(刑法
222条)。そうすると,「盗んだものを返さなければ画像を公開するぞ。」ということが,「自由又は名誉に対する加害の告知」といえるかが問題となります。

 本件が,一般的な脅迫のケースと異なる点は,権利実行の告知という側面があるということでしょう。

 例えば,「返さなければ告訴するぞ。」と告知することは脅迫になるのでしょうか。あるいは,「返さなければ警察に画像を渡すぞ。」と告知することは脅迫になるのでしょうか。これらの行為と,「返さなければ画像をネットで公開するぞ。」と告知する行為はどこが異なるのでしょうか。

 盗まれたものを返せと告げることは適法な権利実行の告知です。適法な事実の告知が違法(つまり脅迫)となるというのはおかしいので,本件の古書店の告知が脅迫に該当するためには,「画像をネットで公開する。」という点が違法行為であると解することになるのでしょう。

 なぜ,違法であるかというと,「この男が犯人だ」と不特定多数者に見せることが,その男の名誉を侵害しうるからでしょう。

 そうすると,古書店の行為が脅迫罪に該当すると解するためには,ネットで犯人画像を公開することが名誉棄損になるということをも論じなければならないように思えます。

 ちなみに,脅迫罪は,不特定多数者に告知したか否かは犯罪の成否に影響しないので,本件の古書店のように,ホームページで「返さなければ画像をネットで公開するぞ。」と告知したとしても,犯人に(のみ)面と向かって「返さなければ画像をネットで公開するぞ。」と告知したとしても,結論は変わらないことになります。

 そこで,名誉棄損の問題が生じるわけですが,この点も,ある法律家が,本件で名誉棄損が成立する,公益目的はないとコメントを寄せていたようです。

 名誉棄損は,公然と事実を適示し,人の名誉を棄損した場合に,その事実の有無にかかわらず成立します。「公然」というのは,不特定多数人が認識できる状態をいいます。「名誉」というのは,よくわからない点がありますが,一般的には,人に対する現実の社会的評価,世評,名声を指すと解されています。

 そして,名誉棄損は,事実の有無にかかわらず成立します。従って,虚名も保護されることになります。つまり,社会の評価が不当に高い場合でも,真実を暴いてはいけないということです。

 したがって,窃盗犯が窃盗行為を行ったことが真実であったとしても,「この男が窃盗犯であるとして男の画像をネットでばらまく」という行為は,公然と事実を適示して男の名誉を棄損していることになります。

 ただし,名誉を侵害する行為であっても,それが,①公共の利害に関する事実であり,②目的がもっぱら公益目的である場合には,適示事実が真実であることを証明すれば罰せられないと刑法
230条の2は規定しています。

 その上,起訴前の犯罪行為に関する事実については,①の公共の利害に関する事実とみなすとされています。

 したがって,本件の古書店の行為については,②の目的の公益性が認められれば,名誉棄損は成立しないことになります。

 目的の公益性というのも,それ自体抽象的な概念なので,わかりにくい点があるとはいえますが,本件でいえば,犯罪行為の摘発それ自体は,被害者のみならず広く社会一般の関心事なので,犯人摘発を目的としていると考えれば,目的の公益性は認められる余地はあると思います。

 他方で,盗まれた物の返還を目的としているのであって,私物の返還を求めているわけだから,公益目的ではなく私益目的だろう,と考えることもできるのでしょう。

 ただ,いずれにしても,報道されていた法律家のコメントのように,公益目的はないと断ずるのは疑問に思いました。
 まぁ,そもそも名誉棄損は親告罪なので,犯人が告訴するとはちょっと考えにくいわけですけど。

 ところで,犯人の画像は,ネットだけでなく,それ以外にも我々は目にしますよね。例えば,指名手配犯のポスターなどです。

 あれは,なぜ警察による名誉棄損とか脅迫とか言われないのかというと,犯人検挙のために捜査機関が行っているためで,公益目的が明らかだから名誉棄損が成立しないのではないかと思います。そして,名誉棄損が成立しないから,違法な事実の告知ではなく,したがって脅迫罪も成立しないということになりそうです。また,脅迫罪については,捜査機関の正当な業務行為として違法性が阻却されると考えることもできるのでしょう。

 そのように考えると,結局は,問題は,最初に引用した弁護士の言葉,つまり,

「警察の捜査を待ち,民事手続で返還を求めるのが正しい在り方」

という考えに戻ってくるように思います。

 つまり,犯罪被害者が自ら行為をした場合には脅迫罪,名誉棄損罪に該当する可能性がある半面,捜査機関が行えばそれらには該当しない,だから捜査機関に任せなさいということです。

 これは,結局のところ,「自力救済の禁止」,つまり,権利を違法に侵害された場合に,国家機関の法定の手続によることなく,自ら実力をもって権利の救済を図ることを禁止されることに繋がっている話のように思います。

 ところで,本件の報道,私が見た範囲では,全ての記事が「万引き」「万引犯」などという表現が用いられており,「窃盗犯」などという表現は皆無でした。

 古書店のホームページでは,「万引き」などと言う表現は用いられておらず,「盗んだ犯人」と表現されていました。

この盗まれた「鉄人
28号」,代金はなんと25万円とのことです。25万円もの商品を盗んだ事実を「万引き」と表現する感覚には疑問を持ちました。万引き―軽微な犯罪―画像公表はやりすぎ,というのが,各報道機関のスタンスだったのでしょう。この古書店はとても気の毒に思いますね。

http://yamato-law-accounting.com/

hy

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